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March 23, 2006

文藝春秋四月号「ルポ下層社会」について

文藝春秋四月号に掲載されている「ルポ下層社会-改革に棄てられた家族を見よ」はひどい原稿である。最近はやりの「小泉改革=格差社会の到来」という図式にのせて、それぞれのケースごとの生活破綻の原因を突き止めることなく、目を覆いたくなる事例を列挙し、あたかもそれらが政府の施策によって生まれたものだと断定している。

原稿の大半は、足立区における貧困家庭に焦点を当てている。足立区民に失礼ではないかと思うほど、これでもかこれでもかと不幸な人々を登場させている。例えば、このような感じである。

1.アジアからの製品輸入に押されて、工賃の低下に苦しむ町工場の家族のケース

2.夫は勤めていた会社がつぶれ独立して仕事をしているが、自動車が買えず自転車で移動しながら仕事をしている配管工の家族のケース

3.妻はいわゆるオーバーローンで自己破産をしたが、子どものためにとパートもしないで夫のわずかな給料で生活しているケース

4,妻が援助交際を受け、夫は定職に就かずぶらぶらしているケース

これらは確かに事実なのであろうが、決して小泉改革の結果生まれた家族ではない。

例えば、1.ケースでは、グローバル競争の激化は、小泉総理が引き起こしたわけではなく、ベルリンの壁の崩壊によって、資本主義の自由な市場に大量の労働者が流れ込み、彼らの手によってつくられる商品が世界に溢れはじめたからである。足立区でなくとも、全国津々浦々でこのような事例はあり、グローバル競争に対処する努力を行った企業は、規模の大小にかかわらず立派に勝ち残っている。

2.のケースでは、残念ながら、職業能力の不足が招いた貧困である。日本社会には、平等にチャンスが与えられている。学力はなくとも、手に職をつけるために、職業訓練校などでスキルアップを図ることは誰でも可能である。それをしないで、現状のレベルの技能で商売をしようとしても、誰からも見向きはされない。

3.のケースでは、自己破産の原因を突きつめて考え、家計を改善する努力を行うべきである。夫の給料がわずかだというのなら共働きをし、併せてしっかりと子どもの教育にも意を払うべきである。おそらく自己破産の原因は過剰消費であろう。身の丈にあった生活は、どのような家庭でも重要だが、「入りを計りて出ずるを制す」の考え方を採り入れるべきである。

4.のケースは、「なにをか言わんや」の世界である。最低のレベルの倫理観をも持てない人々を政策の転換の犠牲者にするなど、開いた口がふさがらない。

著者のS氏は、経済のことはほとんど理解していない。例えば、「ジニ係数は年々悪化し・・・」というが、現在、日本におけるジニ係数0.3台という水準は、資本主義社会では普通のレベルである。これまでの競争不在の悪平等からようやく一歩踏み出したという程度であると考えるのが自然である。

また、「戦後日本は・・・総じて公平な社会がつづいてきた。そうしたケインズ型社会が・・・」という記述についても全くの誤りである。ケインズは、需要不足による短期的な景気後退に公共事業の拡大が有効であるという一般理論を示しただけであり、金持ちから所得を巻き上げて貧乏人に金をばらまくといった政策の推奨者ではない。そもそもケインズはプロの株屋であり、金儲けに長けていた人だ。ケインズも墓場で苦笑いしていることだろう。

いずれにしても、誤解というか曲解というか、このような記述の溢れる原稿を天下の文藝春秋がよく載せたものだ。格差社会の客観的な分析が行われないままに、こうした原稿が読まれていくことは実に不幸である。

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