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April 04, 2006

村上春樹と枡野浩一、その後

枡野浩一氏からトラックバックがあった。村上春樹が文藝春秋四月号に寄せた原稿とそれに対する枡野氏のブログでの所感を読み比べた「村上春樹と枡野浩一」と題した本ブログの記事に対してである。私の雑感に対する感想も枡野氏のブログで新たに書かれたので、その主張はより明確なかたちで理解できるようになった。

その結果、いま何が起きているかというと、アクセスカウンターが、普段の5倍以上のスピードで伸びているということだ。マスノ・ウォッチャーはことのほか多く、その大半が文字を真剣に読み、適切に使おうとする、今日では奇特な所作を身につけている人々である。ゆえにこうした読者は大事にしなければならない。

ということで、以下、私も「その後」を書いてみた。

枡野氏が書かれているように、そもそも枡野浩一と村上春樹の両者に同時に関心をもつ人間は希有な存在であろう。その作品世界は一見して異なるものであり、おそらく人間性も違う二人の作品を同時に読み進める読者はそうたくさんいるものではない。

私の読書の仕方は、作品第一主義とでもいえる方法である。作者の氏素性、思想的背景などはとりあえず横に置く。作者の功績も美徳も恥部も極力、関心をもたないようにする。それでも耳にしたり眼に入るものは決して少なくない。村上春樹の文藝春秋原稿はその典型例であり、文藝春秋を定期購読しながらも、しばらくの間、そのページをめくることに躊躇していたほどだ。
読みたいが読めない。読んでしまったら、いろいろ余計なことが記憶に残ってしまい、今後、その作者の小説は純粋に楽しめなくなるのではないか、という危惧からだ。

作品第一主義に徹した読み方をしていると、作者に対する思い入れも憎しみも無縁なものとなる。信頼する作家の作品でも、たまさか駄作に行き当たることはある。しかしその場合、ただ本を閉じるだけで、落胆も悲観もしない。40年来のファンであるベイスターズがジャイアンツにひどい負け方をして怒鳴りちらしたり、あるいは貝のように押し黙るようなことは、こと読書においては皆無だ。

枡野氏の最初の記事を読む限り、村上春樹嫌いの根底には、おそらく村上春樹(の人格)に、少なくとも私が気づいていない「ダーク」な部分があることの確信があると思われる。村上春樹のそれは、日々、縮小していく文学の世界からさらに光を奪い、裏方を務める出版人を身動きのできないものにしているということなのであろうか。

生業としてものを書くことで生かされている村上春樹が、ベースとなる文学の腐食を自ら調合した薬品で加速させているとすれば、それこそ「文学の殺し屋」として、村上春樹の評価は全く別のものになってゆくだろう。
しかし、作品第一主義の立場からいえば、一小説家の評価などよりも、一作一作に充実した「ものがたり」を読みたい。小説家の性格やその変節が作品に投影されることは避けようもないが、ともかく純粋に作品に浸りたい。

短歌と小説の最大の違いは、「私」に関するリアリティの濃度である。短歌の世界でよく使われる「私性」は、近代坦懐では必須のものであったし、いまでも実作者にはその扱いに洗練さが要求される。枡野氏の短歌は、今日の短歌のなかでは群を抜いて「私性」が鮮やかである。思想にまで達するほどの一貫性があり、潔さを感じさせてくれる。このベースは崩して欲しくない。

私自身、小説に私性というものがありうるのかということを突きつめて考えたことはないが、少なくとも村上春樹の作品には、断片的にそれは現れる。例えば、『神の子どもたちは みな踊る』所収の「かえるくん東京を救う」という短編の「かえるくん」には、私性が強く感じられる。村上春樹の「こうありたい」というような「私」である。

短歌でいう私性とはもちろん趣が異なるが、現代の勇者は不思議なかたちをして私たちの前に現れるのだ。私は、村上春樹にそうした勇者を登場させて欲しいと思うし、それが良心に基づいたものであることを期待したい。

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