ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2006 第2日
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン第2日、今日選んだコンサートは、自由席のものが多く、それぞれ早めに並んで、聴きやすい席を確保するように努めた。おかげで、ひとつを除き中央二列目で聴くことができ、演奏者たちの真剣な姿勢とすぐれた技量を目の当たりにできた。
まず、#252、ホールD7のパリ・バスティーユ管楽アンサンブルである。8人の演奏者は、パリ・オペラ座管弦楽団やフランス国立管弦楽団の団員という一流の人たちだ。期待に違わず、すばらしいアンサンブルを堪能できた。
1曲目は、セレナード 第11番 変ホ長調 K.375 である。このアンサンブルは、オーボエ二本、ファゴット二本、ホルン二本、クラリネット二本の8名、各人のレベルが高く、この曲ではまとまりが特に良かった。リーダーはオーボエ奏者で、彼のリードで演奏されるが、全員で聴きあう姿勢がしっかりしていて、安心して聴ける。第三楽章は特に優美で、きれいに響いた。
次は、歌劇「フィガロの結婚」よりアリア(管楽八重奏版)である。人気のアリアが次々に聴けるが、ここでは各人の聴かせどころがそれぞれに組み込まれていて、まとまりも良いが、各演奏者の個性が十分出ていたように思う。特に良かったのは、ドン・ジョバンニにも挿入されている「もう飛ぶまいぞこの蝶々」だ。ドン・ジョバンニとほぼ同じアレンジで、フィガロよりむしろドン・ジョバンニの地獄に堕ちるシーンを予感させてくれる。モーツアルトは、人間の声でも楽器でも違和感がないようにアンサンブルを考えていたように思う。聴き慣れたフィガロのアリアをこのように管楽器で演奏しても、実に魅力的で、これで十分、メイン・プログラムになる。モーツアルトの生きていた時代には、こうした編成の演奏会が頻繁に開かれていたというが、是非、日本でもこうしたコンサートを気楽に聴ける企画を期待したい。
次のコンサートは、#233、ホールB5のイザイ弦楽四重奏団である。演目は、弦楽四重奏曲の第16番 変ホ長調 K.428 と第17番 変ロ長調 K.458「狩」の2曲である。イザイ弦楽四重奏団は、パリ国立音楽院出身の学生が編成され、もう20年以上の歴史を有し、後進の指導も行っているという。
K.428 は、いわゆるハイドンセットの一曲である。バロック的雰囲気を持ちながらも、メロディアスでない、ロマン派的要素もあるこの曲をイザイ・カルテットは、優美に奏でた。特に印象的だったのは第2楽章で、物憂げなニュアンスがうまく出ていた。
イザイ・カルテットは、基本的に自由に弾きながら最後にきっちりとまとめるというタイプだろう。ヴィルトオーゾ的な性格もありながら、神経質にアンサンブルを練り上げるということもしていない。実演での雰囲気を大事にしていて、気持ちの良いアンサンブルである。
二曲目のK.458「狩」は、颯爽とした演奏だ。特に第1楽章ではドライブがかかり、楽しげに音楽が進んでいく。第2楽章から第3楽章からは、本来のテンポよりゆっくり目で音楽を落ち着かせ、深みを出す。第4楽章では、早めのテンポに戻して緊迫感を出していた。少し早すぎる感もあったが、技量を高さは十二分に窺えた。
次のコンサートは、#234、ホールB5のリモージュ・バロック・アンサンブルによるモーツァルト・ドゥ・ポッシュ(小編成演奏によるモーツァルト)である。このアンサンブルは、古楽器での演奏を学術的にも極めようとしている。その真摯な姿が、メンバーの立ち居振る舞いや目差しなどに出ている。
演奏されたのは、シューベルトのチェンバロのための6つのソナタ、モーツアルトの交響曲 第40番 ト短調 K.550 (クレメンティ&フンメル版)とピアノ協奏曲第12番 イ長調K.414の3曲である。リーダーはクリストフ・コワンというチェリスト、ヴァイオリン2名、ヴィオラ1名、バロックフルート1名が曲毎に入れ替わりながら演奏する。これにパトリック・コーエンのフォルテピアノが加わる。
昨日聴いた、古楽器のアンサンブル以上に響きが渋く、特にフルートが時代を感じさせる。速いパッセージを吹くのが難しく、それでも40番のシンフォニーでは、重要な役割を果たしていた。シンフォニーでは、フォルテピアノも加わっていたが、主要な旋律の多くはフォルテピアノが担う。これにヴァイオリンが高音部をチェロが低音部を奏でる。若干アンサンブルの乱れもあったが、十分にこのシンフォニーの魅力を表現できていたように思う。なにしろ、たった4人で演奏しているだから、高く評価できよう。
よりすばらしかったのは、3曲目に演奏されたK.414のピアノ協奏曲である。コーエンのフォルテピアノは、第1楽章でミスが多かったが、第2楽章、第3楽章と進むにつれて、その表現力の豊かさを存分に聴かせた。特に第2楽章は天上の音楽であった。昨日の七條恵子と比べるのはコーエンに失礼だが、キャリアの違いを明確に感じさせた。響きが豊かで、強弱、緩急の自在さに感服した。最初に一音から集中力が感じられたアンサンブル(基本的なストリングカルテット)にも拍手を送りたい。
次は、#255、ホールD7の山田晃子(ヴァイオリン)による江口玲(ピアノ)ヴァイオリンソナタ2曲である(第40番 変ロ長調 K.454と第42番 イ長調 K.526)。山田は、ロン=ティボー・コンクールの最年少優勝者という新鋭である。まだあどけない、細身の身体は頼りないが、演奏する姿は実に堂々としていて頼もしい。まだ色づけも不十分なデッサンに近い状態の絵画のようだ。クセもついていない無垢な演奏だが、ひょっとするとこの人はモーツアルト弾きとして大成するかもしれないという予感を覚える。
第40番では少し硬く、コクも足らない演奏だったが、江口のリズムが正確で、響きのよいピアノ伴奏にリードされて立派にこなした。この曲はヴァイオリンとピアノが掛け合いを行う部分が多く、その間合いも破綻がなかった。品良く、聴き疲れのしない演奏だった。
第42番では、山田の将来性を強く感じさせた。この曲は、モーツアルトのヴァイオリン・ソナタの完成型となるもので、テクニックとしても高度なものを求められるが、山田は既にしっかりとこの曲を自分のものにしている。
山田の演奏を聴いていると、この曲にベートーヴェンがかなり影響を受けたことがわかる。そうした偉大な曲であることを再認識させてくれた演奏だったと思う。40番よりはるかに出来が良く、特に第3楽章が良かった。山田のモーツアルトだけではなく、ベートーヴェンのソナタも聴いてみたい。
本日最後は、#247、ホールCのアレクサンドル・クニャーゼフ(チェロ)/ゴルダン・ニコリッチ(指揮・ヴァイオリン) /オーヴェルニュ室内管弦楽団である。とうとう、クニャーゼフを聴く日がやってきた。毎晩のようにバッハの無伴奏を聴いてきて、この誰にも似ていないチェリストは、いつの日か生で聴いてみたいと念願していた。N響との共演は、当人のキャンセルで実現しなかったので、クニャーゼフが熱狂の日音楽祭に来ると知ったとき、楽しみというよりもむしろ、本当に来るのだろうかという不安の方が先に立った。しかしクニャーゼフは、この音楽祭の舞台に立った。
1曲目、モーツァルトのディヴェルティメントヘ長調 K.138は、室内管弦楽団としては実にゴージャスな演奏で、圧倒されたが、正直いって、半分も聴いていなかった。それほど、クニャーゼフの登場を待ち望んでいたわけだが、それは私だけではなく、ホールCを埋めた聴衆はみな同じ思いだったと思う。
ハイドンのチェロ協奏曲 第1番 ハ長調 Hob.VIIb.1は、名曲である。1763年の作曲というからずいぶん古い曲だが、まったく古くささを感じさせない。第1楽章は、力強くてしかもエレガントな演奏だ。この人は弱音の響かせ方がうまく、おそらく楽譜以上に誇張して強弱を付けているのだろうが、実に効果的だ。第2楽章は、息をのむほどの美しい演奏を聴かせた。この人は緩楽章の方が印象に残る演奏をする。そして第3楽章は、テンポを一気にあげて、ヴィルトオーゾ的な一面を見せる。
クニャーゼフは、単なるヴィルトオーゾ奏者ではなく、自身の思索を演奏に反映させることに努めるタイプだろう。既にアルバムとなっているバッハの無伴奏は、比較するものがないほどゆっくりとした楽章がある一方で、軽やかにテンポよく奏でる楽章もある。今日のハイドンも、第2楽章の深い息づかいとは対照的に、第3楽章のスピード感あふれる演奏の組み合わせが面白かった。
この音楽祭では珍しく、アンコールを2曲披露した、バッハの無伴奏から二つの楽章をえらび弾いたが、2千人近くの聴衆が息をつめて聴く、ある種異様な雰囲気のなか、クニャーゼフは、自身のいまの音楽観を示してくれた。
充実した二日目で、多少疲れたが、明日、明後日と期待のコンサートはまだ続く。
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Comments
こんにちは。ご無沙汰しております。
連日多くのコンサートを聴かれていて、すごいですね。
今年は残念ながら作曲家文字絵のワークショップはやらないことになってしまいました。その代わりと言っては何ですが、ささやかながら神童時代の顔を含む文字絵研究所のモーツァルトのカードを差し上げたいと思います。今日5日の6: 00~6:15PM、あす6:45~7:00PM、もしご都合がつくようでしたら、A展示室の入り口を入って左手の、Aホールへ向かう何もないスペース 、文字絵のシャツを着て上記の時間おりますので、気軽にお声をおかけください(または、会場をあちこち歩いておりますので、その時にでも)。
もし、ご都合が悪ければ、よかったらブログを覗いてみてください。14歳のモーツァルトの顔をアップいたしました。
Posted by: こもへじ | May 05, 2006 at 02:46 PM