松村由利子の世界
月刊文藝春秋の最新号(2007年4月号)で、松村由利子の作品に出合う。最近は総合誌に目を通すこともなく、ましてや各種の短歌賞の受賞作品にも関心を持たず、この人が第7回現代短歌新人賞に選ばれていたことを今知ったほどだ。
文藝春秋では、「花の色」と題する8首が掲載されている。4首を引く。
春の耳しずかに空へ向けるとき極地の氷また崩落す
現代仮名で淡々と語られる歌には、なぜか新鮮な響きが感じられる。この歌の良さは、おそらく地球温暖化というたいそう大きな問題を詠いながらも、淡く詩的にまとめたところだろう。
まず初句の「春の耳」が良い。この言葉を見つけたところで、この歌の成功は決まったも同然だろう。「しずかに空に向けるとき」がとても自然で、結句の「氷また崩落す」に着地する。実に落ち着いた歌である。
爛漫と装うことも苦しかり桜樹はとおきナジャフを見つむ
この歌も国際社会を意識した歌だ。イラクのシーア派の拠点ナジャフをさりげなく登場させた。作者がナジャフに行ったことがあるとは思えないが、上句の「爛漫と装うことも苦しかり」と擬人化された表現により、桜が華やかさとともにもつ悲しみの本質を端的に表すことに成功した。
春は鯨 大潮の夜ぽっかりとかすてら色の月が上れば
初句が破格である。月光に戯れる鯨を作者が至近距離で実際に見てきたようなリアリティを感じる。
松村の歌の作り方は、おそらく一点の事実を見つめることで頭をよぎるさまざまな状景を連携を意識せずにつなぎ止める、というようなものなのであろう。そこに詩情が生まれ、読み手の心を魅了する。
重要なことは、歌をつくってやろうという魂胆が見えてこないことだろう。ひょっとしたら、本人はむしろそういう気概を持っているのかもしれないが、それを見えにくくしている何かがある。おそらくそれは、この人の素直さにあるのかもしれない。
米国に初めて開く花あれかしヒラリー・クリントンの美しき皺
見たまま、感じたままをそのまま詠っても歌になる。外連味がないということではないが、なぜか欠点を指摘しにくいつくりなのだ。
第7回現代短歌新人賞に選ばれた松村の歌集『鳥女』(本阿弥書店)はとても評判がよいと聞く。是非読んでみたい。
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Comments
HIROさん、初めまして。
松村由利子さんが日経新聞に取り上げられた時に書いた記事と、それを含め私が書いた記事のリンク集をトラックバックさせていただきました。よろしければ、お訪ねいただければと思います。
Posted by: 拓庵 | March 17, 2007 at 09:19 PM