小池光新作
文藝春秋の最新号(2008年7月号)に、短歌人編集人の小池光の最新作8首が掲載されていたので、紹介する。文藝春秋は今日発売で、著作権法に触れるので8首中4首を取り上げる。
さまざまなこと嵐にまさり押し寄せて今月もはや二十五日ぞ
小池光の短歌の特長のひとつに、漢字とひらがらのバランスの良さがある。この歌では比較的漢字の多いが、「押し寄せて」という句の通り、漢字のもつ凝縮感で、押し出しを強めている。
言葉の選び方で参考としたいのは、「嵐にまさり」であろう。普通なら、「嵐のごとく」としてしまうところだ。「ごとく」「ように」の直喩表現は食傷気味である。「ごとく」等を使わずに、読ませるようにしなければならないということを気づかせてくれる。
芍薬のつぼみにのぼる蟻ひとつゆふぐれの風あたらしき中
花の咲く季節は、同時に虫たちの活動が活発になる季節でもある。蟻は小さいが黒いので、華やかな色の花弁に歩いているところは、容易にみつけられる。それを何の感情もはさまず、淡々と詠った歌である。
むしろ、花弁をゆらす「ゆふぐれの風」という句が、作者の感情を表しているポイントとなり、読みやすい自然詠としている。小池作品としては、存外めずらしいタイプの歌かもしれない。
昨年よりいかにもあはき色あひに灯りそめたる庭の紫陽花
これもそのまま読めば、ごく普通の自然詠であるが、「いかにもあはき色あひ」の「紫陽花」をみつめている作者の境涯が投影されているように思う。
植物の成長の変わり様は、温暖化の影響という見方もできるが、この場合、永年の教職を辞した作者自身の心の変化のようなものが、この歌からは感じられるのである。
掌(てのひら)のうへに五月の小鳥ありなんとかなしきこゑに鳴くかも
雀の雛でも拾ったのであろう。作者はそれを掌に乗せて観察をしている。雛の立場からすれば、親鳥から離れてしまった異常事態に鳴くほかない。
その鳴き声を単刀直入に「なんとかなしきこゑ」と表現した。この世で、この雛ほど悲しく鳴くものはいないという、やや大仰な表現が、新しい生を生み出す五月というさわやかな季節と対比されている。
短歌人で書かれている作品に比べると、読みやすいという印象があるが、それは対象が一般読者と短歌人会員の違いから来るものだろう。なかなかの一連である。ご一読を。
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